川柳の上達法 ⑤文字使い
1) 文字の活用
わずか17音の中で人間の喜怒哀楽の世界を描出しなければならないので、いかに日本語を有効活用し
て一句を組み立てるかが重要となる。表意文字の漢字と、表音文字のひらがなとカタカナを巧に組み合わ
せるかである。いかに人間の心打つ作品に仕上げるかが、醍醐味なのである。
5・7・5音の定型を基本にしながら、句姿やリズムそして表現内容も加味しながら1句を生み出すのであ
るから、より吟味された言葉たちが生み出す詩情を大切にしなければならない。
17音でまとめるためには、どうしても漢字の意味性を重要視するために、漢字の使用頻度が高くなって
しまうきらいがある。漢字はどうしても眼で見ると硬さが浮き上がるので、1句の軟らかさを表出するため
には、いかにひらがなを上手く使うかが大切である。
2) ひらがなの活用
今年の「短歌研究新人賞」は、やすたけまり、という女性の「ナガミヒナゲシ」30首が受賞している。
これは北海道新聞の平成21年11月9日に掲載された、時評・短歌・高野公彦氏からの作品の引用である。
① なつかしい野原はみんなとおくから来たものたちでできていました
② そらのみなとみずのみなとかぜのみなとゆめのみなとに種はこぼれる
③ 六月の信号待ちのトラックのぬれたタイヤにはりつく末来
④ 動力はねじれた気持ち坂道でとまってしまう糸巻き車
⑤ くりかえし砂の時計のうらがわに降る降る風に吹かれない砂
漢字とひらがなを使ってどのように表現するかは、作者の感性力であり好みかもしれない。一首をつむぎ
あげるときに、その作品に対してのイメージをどのように膨らませ、どのように文字使いをするかについて、
何処まで考えて推敲して完成品とするのであろうか。
例えばこの5首のひらがなと漢字の部分を僕なりに置き換えてみよう。作品はどのように変化し、作者の
意図が崩れるのだろうか。
① 懐かしい野原はみんな遠くから来た物たちでできていました
② 空の港水の港風の港夢に種は零れる
③ 六月の信号待ちのトラックの濡れたタイヤに張り付く末来
④ 動力は捩れた気持ち坂道で止まってしまう糸巻き車
⑤ 繰り返し砂の時計の裏側に降るふる風に吹かれない砂
①と②の作品は、まるっきり硬い表現となり、作者の意図しているメルヘン性やロマンチック性がなくなり、
作品の価値をも喪失させてしまう。③と④の作品は、「ぬれた」と「はりつく」を「濡れた」と「張り付く」に、「ね
じれた」と「とまって」を「捩れた」と「止まって」に置換えたのだが、あまり原首に対して違和感はないように思う。
⑤の作品は、「くりかえし」と「うらがわ」を「繰り返し」と「裏側」に、「降る降る」を「降るふる」に置き換えたの
であるが、少し漢字が多くなってしまい感情が殺がれてしまったように感じられる。
あくまでも感性が生み出す作品なので、作者に対しては失礼である。参考の事例として解釈し、ひらがなの
活用を楽しんで欲しいと考えている。
3) 文字使いの難しさ
道新文化センター教室の作品より。
① 旅支度まずは薬と保険証 →→ 旅じたく先ずは薬と保険証
② 呑み方で毒や薬になるお酒 →→ 飲みかたで毒や薬になるお酒
③ 惚けに効く薬買うかと妻が責め →→ 惚けにきく薬かうかと妻が責め
さて文字使いとは作者の感性が表われるので、安易に添削することはできない。しかし、少しでも変えること
によって作品が良いほうに変化するのであれば、作者としても認めざるをえないのかもしれない。一句を完成
させるためには、それだけ推敲をすることが重要なのである。
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