川柳の上達法 ㉓ 川柳の日本語力
句の表現力を高めることは重要ではあるが、特に雑詠(自由吟)の場合は、難解性をも包含した作品と
ならざるをえない。それは、個人の感性や言葉の組み立て方の差異であり、一概に否定する訳にはい
かない。
川柳の持っている定型の魅力と、それを変化させる技術力をも加味して、各人が川柳の深奥を探り続け
るしかない。根底にあるのは、いかにリズム感を大切にし、自分の想いを吐き続けるかである。
1、日本語
「ニッポン」か「ニホン」か、昭和9年の文部省臨時国語調査会で、ついに(ニッポンを正式呼称とす
る)という案が議決された。この案が法律で制定されずに二本立てで使用されてきた。昭和45年7月
14日に、政府が日本の呼称を「ニッポン」に統一したが、依然として二本立てである。
「小学館の『日本国語大辞典』によれば『日本』は呉音の字音よみとしてまずニッポンと発音された
のだそうです。それがしだいに、日本的にやわらかなニホンに変わっていったらしい。そして現在で
は、前述したようににニホンが主流になりました。ちなみにいまの憲法を正式には『ニホン国憲法』
と呼びます。
日本語の音はいくつあるのか、筆者が数えたところでは、
清音(ア、イ、ウ、・・・ラ、リ、ル、レ、ロ、ワまで)が 44個。
濁音(ガ行、ザ行、ダ行、バ行)が十八個。半濁音(パ行)が 5個。
拗音(きゃ、きゅ、きょ・・・) が35個。
促音(つまる音「っ」が 1個。
撥音(「ん」で書かれるような、はねる音)が1 個。
合計 104個。これが日本語を成り立たせている音節の数です。
<井上ひさしの日本語相談(新潮文庫)より引用>
2、日本語の魅力
川柳人は、漢字・ひらがな・カタカナやローマ字表記を有効活用して一句を生み出している。文字
をいかに有効に組み合わせて表現するかで苦心しているのだが、反面はかりしれない喜びを享
受している。
川柳さっぽろ平成25年11月号より
何もかもわかってゆるす母の背な 貴美子
言い訳を聞き流してるカラス二羽 眞理子
住みにくい地球ですがと種を撒く 克 則
薬指の反乱 無人駅に立つ 桜 子
光らない石で埋めてく水溜り 勝 義
天国か地獄か賽の目の正義 詠 児
狂走するアリ 遠ざかるピーポー 閑
一枚の枯葉のように喪の葉書 麗 水
カボチャほくほく笑顔を取りもどす 幸 美
いかに心情を伝えるために文字を選ぶか、読者に共感をえられるか、評価されるか、などと考えな
ら生み出していく。生み出された一句は、巣離れをする小鳥のように、自由に空を飛び始める。
そして、親とはかけ離れた次元のなかで、批判や評価の対象となって消えていく。
日本語の魅力をいかに引き出すかは、各人の感性と作句力に委ねるしかないのだが、何点かをあ
げてみる。
① こころを澄明にして思索を深める。
② その思索した想いを基にして、有効な文字を選ぶ。
③ 漢字、ひらがな、カタカナのバランスを考える。
④ 句姿に配意し、意味性の強い漢字を控えめにする。
⑤ 必ず音読をして、リズム感を確かめる。
⑥ 目と耳を活用して、正調美を求める
日本語の持っている調べと、語感や余韻や余情を一句の中で楽しむこと。文字の組み合わせの
妙に配意しつつ、感情に溺れることなく、客観視する心を持つことも大切である。
いずれにしても、一句は各人の心の葛藤の所産であるから、自己の想いを大切にして、文字の組
み合わせと対峙すべきである。心が文字を求め、文字が心を求めるのであるから。相思相愛なの
であるから。
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