川柳の上達法 ⑳ 川柳の基本力
1、定型詩として
川柳は人間を客観視点で詠み、俳句は叙景詩といわれ、事物や風景を詠む。短歌は個人の感覚
や感情を風景を伴って詠む。俳句と川柳は五・七・五の十七音、短歌は五・七・五・七・七の三十一
音。季語が必要なのは俳句のみである。
定型を遵守することが基本となるが、一句の奥行きを広げるために、技法を駆使する必然性を認
めない訳にはいかない。
三要素・伝習的川柳(特に古川柳)の特性を、穿ち・おかしみ・軽みとしたもの。これを現代的にわ
かりやすくすると、以下のように理解できる。
穿ち(うがち) → 発見「穿ちは穴を開ける意味。つまり、句でハッとさせること。」
おかしみ → 笑い「笑いは、爆笑ではなく、心をくすぐる笑いのこと。」
軽み → 頷き「軽みは、サラリと意が取れるけれど、奥行きがある句で、読み手の頷き
を誘うこと。」
道を究めるためには、その道の基本を習得しなければならない。基本を習得することによって、更
なる変化を求めることが可能となり、奥行きの深さを探求することが可能となる。
2、形式のいろいろ
「川柳は、定まった形式を持つ詩の一種で、これを『五七五定型』とか『十七音定型』とか呼んでい
る。
十七音の中で、コトバにも意味にも切れがなく、全体がひとつながりの場合(一句一章)と、コトバ
と意味の切れが、五―七五あるいは五七―五と二つに切れる場合(二句一章)を「正格」、コトバ
の切れに意味の切れが一致しないで移動したかたちを『変格』と呼んで定型に加えている。
また、格調を侵さない範囲での音数の増減(字余り・字足らず)は定型とみなされている。
七五あるいは五七の音調を無視した形式を破調(自由律)と呼び、多音(総音数の多いかたち)、
寡音(総音数の少ないかたち)を含めて非定型という」。
〈尾藤三柳著・川柳作句教室。俳句・川柳・短歌の教科書より引用〉
「斎藤大雄の川柳と命刻」より、定型詩の魅力を探ってみよう。
連凧のひとつに妻がいて落ちず
あいと書くめしとも書いて男の譜
まだ生きるつもりだ靴を買って来る
母さんがくれたいのちだ抱いて寝る
みんな働いている 枯れ葉一枚
びっしりと寝汗 原稿たまってる
働いて働いて母 足洗う
しゃっけえ手あったけえ手雪いのちひと
はらわたの焔のかたまりよ詩が燃える
雪雪雪光りと影と黒髪と
クスリバリバリガブガブとベッドの死
定型の句はリズム感も良く、すとんと心に落ち着いて心地よい響きをもたらす。それが川柳の真髄で
あり、定型詩としての魅力なのかもしれない。定型を守り、分かりやすく、心を打つ句が佳句なのであ
ろう。だが、分かりやすさの中にある深みが、佳句としての更なる奥行きを広げるのである。
破調(自由律)であっても、作品の底に作家としての精神が吐露され、共感を呼ぶ作品であるならば、
まったく否定する訳にはいかない。何故ならば、その句に吹き込まれる心の叫びが、命の言葉となっ
て吐き出されるのであるから、読者としての理解しようとする感知力も要求される。
原点を守り、理解し、表現する。そして、許容値の範囲をいかに設定し守るか、が定型詩としての命
題なのである。そのために川柳人として悩み、日々研鑽の道を歩み続けるのであるから。
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