川柳の上達法 ⑭上六

 

            

  1・上六の問題点

      なぜ上六になるのか、するのか、を考えてみると、以下の要件が考えられる。

      ①   睡眠剤、腹いっぱい、大会場、新幹線、一人息子、鍾乳洞、トランボリン、三分間、運動会、

         回転椅子、古女房、などの名詞を使っている。

            ②   助詞(手、に、を、は、の、が、も)などを安易に使用している。

            ③   上六の字余りによるリズム感の悪さは、余り気にしていない。

          中八や下六などとは違って、上六の場合は余りリズム感に違和感を生じないので、作者自身も気に

           ならないのかもしれない。だが、句の姿としては良くはないので、推敲をすべきなのである。

          それでは、どのようにして推敲をして句姿を整えるべきなのであろうか。例句により考察してみよう。

          ○印・原句。☆印・添削句。

  ○  睡眠剤効きめのあとのとぼけ朝

       ①   睡眠剤に変わる言葉がないかを考える。

          ☆ 眠剤がきいてる朝のとぼけ顔

       ②   睡眠剤を、中七に入れて句を作られないかを考える。

            ☆とぼけがお睡眠剤が効いた朝

            ☆効きすぎた睡眠剤ととぼけ顔

            ☆効きすぎた睡眠剤と朝の顔

          このように句を変化させていくことができる。

 

  2・上七の事例

            それでは「時実新子・川柳の学校」より引用して考察してみよう。

                豆科の花はこぼれつづけるいくじなし

            たとえばこの句ですが、上五が「豆科の花は」までの七音。中七は「こぼれつづける」で七音、

      下五が「いくじなし」で五音です。このとおり、七・七・五にはきちんとリズムがある。やはり、中七とい

      う柱がしっかりしているからです。上五は多少重くなっても構いません。下が六音とか七音とか重くな

      ったら上に持ってくる。これもリズムを整えるコツです。

      新子は、このようにこの句を解説している。さて「こぼれつづける」の中七がしっかりしているから、

      七・七・五であってもきちんとしたリズムがある、と言っている。この句の上七「豆科の花は」を、中七

      に入れて添削できないのであろうか。「こぼれてる豆科の花はいくじなし

      こぼれる(零れる)①もれおちる。②あふれる。こぼれる(溢れる)。この句の解釈は「豆科の花はあ

      ふれるように咲き続けるが、実はいくじなしなのだ」であろうか。豆科の花とは、新子自身を擬人化

      したのだと思われる。

 

      なぜ「こぼれつづける」でなければならないのか。「豆科の花が主題ではないのだろうか。添作句の

      解釈は「あふれるように咲き続ける豆科の花はいくじなしなのだ」となる。この方が擬人化としての

      効果が上がらないだろうか。こぼれる、では余情が薄くなるからであろうか。流れの余情としては、

      添削句の方が適切だと思うのは、男と女の感性の相違であろうか。★豆科。マメ科の植物で、大豆、

      あずき、そらまめ、えんどうなど実を食用にする。

 

  3・上六の功罪

      できるだけ上六は避けるべきであって、その言葉によって上六が生かされる場合は例外であろう。

          運命線透かせば小さな水たまり  加藤かずこ

          賞味期限 地球にもあるのかな  斎藤 治枝

          原発ノーダム湖の水が光ってる 

 

      いかに生きた上六の言葉を選択して、中七と下五への訴求力を高められるかが求められる。