川柳の上達法 ⑬ 上五
1・上語の重要性
一句を生み出そうとする時に、先ずどこから着想を広げるであろうか。
① 上語を決める。
② 中七を決める。
③ 下五を決める。
この三つの中では、大多数が①上語を決める、ではないだろうか。頭の中で発想をふくらませなが
ら、先ず最初に上語を決めて、中七、下五と言葉を組み立てていき、一句を完成させるのではないだ
ろうか。
それだけに、最初にどのような言葉を上語に使うのか、が一句の命を左右することになる。上語を
決めたことによって、中七と下五の相乗効果を利用して、着想をより鮮明な形として浮き上がらせて
いくことが重要となる。
それでは、一句の命を左右する上語の選択は、どのようにして行えばよいのであろうか。題詠と雑
詠の場合には相違が出てくるので、その相違についt考えてみよう。
2・題詠の上語
札幌川柳社、二十四年八月本社句会の宿題「汗」岡崎 守選 前抜き作品より。
汗くさい乙女の中にある香り 幸泉
汗をかけ人につくせと父の背な 浩一
汗ひかる球児絵になる甲子園 民子
題詠の場合は、上語に題を読み込むことによって、一句が作りやすくなる。それは、着想がまとめや
すいからである。前抜き三十二句、五客、三才、計四〇句の中で、上語に題を読み込んだのは十一句、
中七に読み込んだのは十九句、下五に読み込んだのは九句、内容で表現したのは一句であった。この
三句を推敲したならば、どのように句は変化するであろうか。
☆汗におう乙女の中にある香り(汗におう乙女が秘めている香り)
☆汗を積め人につくせと父の背な(汗を積め人に尽くせと父の背な)
☆汗が飛ぶ球児絵になる甲子園(汗が飛ぶ球児の夢と甲子園)
どうしても題を上語に読み込んで作句したくなるので、同じ言葉を極力避けて使うことが必要となる。
上語に題が有る句が多いので、選者としては抜きづらいので、作句者も考えるべきである。
3・雑詠の上語
札幌川柳社、二十四年八月本社句会の席題「雑詠」干野秀哉暹 前抜き作品より。
ただいまの前に仮面をすり替える ふみ子
自画像がにっと笑ったスキャンダル 郁子
介護するための手足を鍛えてる 幸美
雑詠の場合は題に拘束されることがないので、自由な発想で作句することができる。それだけに、
いかにユニーク(独特・独自的)な題材と表現を駆使するかが求められる。心象を抉り出す言葉の組
み立て方が、題詠よりも自由に緻密紡ぐ必要がある。選者も作者の心音をキャッチしなければならな
いので、複雑で多岐にわたる心象を理解しなければならない。
☆戸を開ける影が仮面をすり替える(戸を開ける影が仮面の中に消え)
☆道化師がにっと笑ったスキャンダル(仮死像がにっと囁くスキャンダル)
☆要介護たえて鍛えている手足(要介護たえて鍛えている私)
上語にいかに意外性を持たせるかが、題詠でも雑詠でも重要なこととなる。そのためには、言葉の選
択がポイントとなるので、いかに良いと思われる上語をストックして置くかが大切である。
4・上語の推敲
上語は推敲がしずらいので、題詠の場合はできるだけ上語に題を読み込まないようにしたい。雑詠
の場合は、あらゆる言葉を上語に使用することが可能なので、いかに新鮮さを加味した言葉を選択す
るかである。
上語は発想の原点となるので、作句の段階から言葉の選択に留意して、さらに吟味して推敲をしたい。
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