2020年9月号

巻頭言

  「器の花」

 

     大地の器に、色とりどりの花が咲いています。その競い合う百花繚乱を鑑賞されることも

    なく、無観客の人間たちを笑いながら、命を落としていきます。花々の悲しい吐息が聞こえ

    てくるのを実感します。

     新型コロナウィルスによって、日常が破壊されました。まるで人間たちの欲望と、人知を

    嘲笑うかのように。終息への道程はまだまだ遠く、関係機関の従事者の皆さんの過酷な状況

    が続きます。そして、感染者への差別と排除が広がっています。悲しい現実です。

     札幌川柳社での感染者の話はありませんが、各地での句会は8月から始まりました。句会

    場の器には、沢山の笑顔の花が咲きました。自粛を強いられていた月日を思いますと、どれ

    だけ句会を通しての結び付きが大切なのかが、実感として心に沁みました。単に句を作るだ

    けではなく、心の結び付きや幸せの時を分かち合える素晴らしさに、感動を覚えました。

     人間は、それぞれの器の中で生かされ、器の広がりによって愛や幸福や生や死を教えられ

    て、自らの花を咲かせられるのだと思います。

     川柳の器で開いた花を大切にして、この危機を乗り切り、元気で歩みましょう。

       

           「川柳の器の花と咲く未来」   岡崎  守

     

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  【あかしや集】:岡崎 守 選

 

  ・あらぁ喜寿もう振り向かぬうつむかぬ   世良田裕子 ・・・ 特選句

  ・初もぎのいちご遺影の母の笑み      加藤 民子 ・・・ 秀 句

  ・二メートル妻と離れて月見酒       佐藤 正文      〃

  ・降りやまぬ恐怖 愛に縋りつく      後藤 信子      〃

  ・不機嫌なコロナ妻も手に負えぬ      高宮まゆ未      〃

  ・独り居の自粛に耐えるスクワット     山田幸一郎      〃

  ・宇宙へと響けショパンの子守歌      小澤 絹子      〃

 

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  【ぽぷら集】:鈴木 厚子 選

  

   ・少少の毒はあります護身用       山本 貞子 ・・・ 特選句

   ・腕枕たまにはほしい膝まくら      東  考矢 ・・・ 秀 句

   ・人間の敵は人間やるせない       相澤 重明      〃

   ・思いきり愛したいのにエアーハグ    折原 博美      〃

   ・何だなんだとスズメが群れる通学路   遠藤 俊二      〃

   ・負けるものかと夏のドレスひるがえす  高橋かおり      〃

   ・おはようの声走らせる登校日      野島 淑江      〃

   ・収まればオールディーズでハイボール  菊地 昌代      〃

 

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   【幌 都 集】:酒井 麗水 選

 

   ・後半は塩の加減が処世術        長内 寿一 ・・・ 金鈴抄

   ・やわらかくなっていい味沁みてくる   石出 栄光      〃

   ・どんなときも平気でいろと前頭葉    福島あけみ      〃

   ・母のよな野菊一面墓地埋める      高嶋 克明      〃

   ・キャンバスに二人で渡る虹を描く    山口 栄子      〃

   ・物忘れ増えても夫揺るぎない      小山 和子 ・・・ 秀 句

   ・魔性めくアンダルシアの風と舞     亀貝えみ子      〃

   ・カラオケをコロナが待たす合言葉    山之内美根子     〃