川柳の上達法 ⑰ 下五
1、下五
十七音形式を五・七・五と三句態に分けた末尾の五音のことで、座五、結句(けっく)ともいう。下五が
字余りになると、すわりが悪いといって嫌われ、一句の姿やリズムが悪くなる。従って、下五の字余り
や字足らずは特に気をつける必要がある。
さっぽろ誌の平成二十四年十一月号「幌都集」より、下六の句を拾ってみる。
① 欲望を満たしきれない喫水線 落合魯忠
② 頑張れと学ぶ背を押す拡大鏡 堺あつ子
③ 晩成があるのか趣味の一直線 石川黎子
④ 大卒者大志がしぼむ就職難 永井富美子
この四句のように、名詞止めの句が下六となりやすい。目で見る川柳ならば余り気にならないのだが、
披講をして耳で聞く川柳となるとすわりが悪くなる。下六の言葉を中七に入れ替えて、五・七・五音の
定型にすることは可能である。絶対に下六は駄目であるとは言えないが、下五にする努力は必要だ
と考えている。
① 欲望を喫水線が満たせない
② 頑張れと拡大鏡が背なを押す
③ 晩成に一直線の趣味の道
④ 大卒に就職難が消す大志
中七の、「満たしきれない」、「学ぶ背を押す」、「あるのか趣味の」、「大志がしぼむ」、の言葉を省略
して、下六の言葉を中七に入れ替えて見る。そして下五を、「満たせない」、「背なを押す」、「趣味の
道」、「消す大志」、に置き換えたことによって、作者が言わんとしている句の意味が損なわれたであ
ろうか。添削句の方が、リズム感が良くなり、切れ味が増したのではないだろうか。
いかに説明する言葉を省略して、読者にも句の底にある意味を読み取らせ、共感を共有させるため
の言葉の選択が大切となる。
あかしや集には、プライバシー、敬老会、充実感、人恋しさ、兄弟愛、新人類、戦力外、個人情報、血
管痛、自家菜園、追跡中、握り拳、出納帳、六十代、満月光、単細胞、節電中、狐狸妖怪、などの言
葉が下五として使われている。いかに中七にして使用することができないか、と考えることが必要であ
る。
2、下五のどんでん返し
「時実新子 川柳の学校より引用」
舟虫よお前卑怯でうつくしい 時実新子
この句は下五の『うつくしい』、読み手をエエッ!とさせます。『卑怯』の後に続く言葉は、『大嫌い』と
か『かわいそう』とかになるのが常識です。
しかし、この常識のまま[舟虫よお前卑怯でかわい そう〕という川柳にしたら、当たり前で訴えるもの
のない五・七・五で終わってしまいます。
そこで『うつくしい』という下五のどんでん返しが、舟虫のペーソスや本性を出すことになるのです。
肯定する上五・中七を下五で否定する。
否定する上五・中七を下五で肯定する。
川柳の緊張感は、この下五のどんでん返しで生まれることが多いのです」。
☆一句を作り上げる時の技法として、下五の有効性や意外性を活用することが重要となる。
下五は、一句の緊張感を高め、創造性を膨らませるための有効な手段となる。
☆安易な下五や下六の言葉の使用は、説明的となり、句の流れを阻害して、リズム感の悪い句と
なる。
☆できるだけ下五を守り、字余りや字足らずにならないように作句する。
☆下五のどんでん返し、大いに考えさせられる技法である。肯定と否定の言葉をいかに上手く使
用するか、いかに上手く組み立てるか、を心に刻み込むかが重要となる。
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